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政策金利1.25%時代のLBO:金利上昇はPEのリターンと買収価格をどこまで動かすか

LBOs at a 1.25% Policy Rate: How Rising Japanese Rates Change PE Return Math and Sale Prices

公開 2026.10.08 読了目安 約11分

この記事の要点

日本銀行の政策金利は2026年9月に1.25%へ引き上げられ、マイナス金利だった2021年から景色が変わった。国内LBOローンは全銀協TIBORに連動する変動金利で組まれる。設例のLBOモデルで再計算すると、基準金利1%の上昇がIRRを押し下げる幅は0.3%ポイント程度にとどまる。リターンを大きく削るのは、金利上昇に伴う借入余力の縮小、出口倍率の伸び悩み、保有期間の長期化である。PE、2021〜2022年組成案件の借り手、PEへの売却を考えるオーナーそれぞれにとっての含意を示す。

目次(7項目)

2021年12月、日本銀行は日銀当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%の金利を適用していた。それから5年たらずで、2026年9月18日の金融政策決定会合は、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.25%程度で推移するよう促すことを決めた。LBO(レバレッジド・バイアウト)の資金は変動金利で借りるのが通例であり、金利の上昇はそのまま利払いの増加になる。

では、それが PE ファンドのリターンと、PE が売り手に提示できる価格をどれだけ動かすのか。設例の LBO モデルで計算すると、答えは直感とやや異なる。基準金利が1%上がったことだけで失われるリターンは小さい。リターンを大きく削るのは、金利上昇と同時に起きやすい借入余力の縮小、出口倍率の伸び悩み、保有期間の長期化のほうである。以下、金利の推移、国内 LBO ローンの組み方、設例の計算、そして関係者ごとの含意を順にみる。

政策金利の推移:2024年3月から6回の変更

日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を終え、その後段階的に引き上げてきた。

決定日無担保コールレート(O/N)の誘導水準
2024年3月19日0〜0.1%程度
2024年7月31日0.25%程度
2025年1月24日0.5%程度
2025年12月19日0.75%程度
2026年6月16日1.0%程度
2026年9月18日1.25%程度(9月24日から適用)

2024年7月から2026年9月までの上昇幅は1.00%ポイントである。国内の LBO ローンが参照する全銀協日本円 TIBOR について、運営機関は「本邦無担保コール市場の実勢を反映した」指標として毎営業日公表している。日銀が誘導する無担保コールレートが上がれば、TIBOR を基準とするローンの金利も上がる関係にある。

国内 LBO ローンはどう組まれているか

日本銀行の日銀レビュー「LBO ファイナンスの動向とリスク管理」(2024年5月)は、LBO ファイナンスを一般的な法人向け融資と比べて高レバレッジ・低格付であり、変動金利かつ高スプレッドが適用されるため金利変動の影響を受けやすいと位置づける。わが国金融機関の LBO ファイナンス与信残高は約9.5兆円(海外4.5兆円、国内5兆円)に達しているとみられる。同レビューは、借入期間の最終日に一括返済する仕組みが採用されることが多い点も挙げ、買収 SPC だけでなく中間持株会社(HoldCo)にも銀行団が与信し、スキーム全体のレバレッジがより高まる案件が海外を中心に増えていると指摘する。

実際の条件は、公開買付届出書の「買付け等に要する資金」欄から読み取れる。2026年9月に始まったグロース市場上場の HYUGA PRIMARY CARE に対する MBO 型の公開買付けでは、公開買付者 JG44 が福岡銀行とみずほ銀行の2行から、7年分割弁済のタームローンAと7年期限一括弁済のタームローンBを借り入れる予定で、金利はいずれも全銀協日本円 TIBOR に基づく変動金利である。借入上限は合計98.7億円、うちタームローンBが70.0%を占め、ファンドの出資42.7億円と合わせた資金の69.8%が借入れになる(上限額ベース、同届出書)。2025年8月の大型案件、ビー・エックス・ジェイ・イー・ツー・ホールディングによるテクノプロ・ホールディングス株式の公開買付けでも、タームローンA・B とブリッジローンがいずれも TIBOR 連動の変動金利で、借入上限2,580億円に対して出資等は2,500億円、借入比率は50.8%だった(公開買付届出書)。

貸し手側の問題意識もはっきりしている。全国銀行協会が事務局を務める勉強会の2025年度報告書は、「基準金利の上昇により、従来と同一のレバレッジ水準であっても、利払い負担は増加しており」、返済余力やキャッシュフローの耐性の評価が重要になったと書く。とくに地域金融機関が主に関与する中小規模の案件では、借入人のキャッシュフローの変動耐性が限られることが多く、利払い負担の増加が業績や財務に顕在化しやすいとしている。それでも需要は衰えていない。日銀の金融システムレポート(2026年4月)は、LBO ファイナンスを含む企業買収等のコーポレートアクションに伴う資金需要が旺盛だと記している。

設例:基準金利1%の上昇でリターンはどれだけ動くか

以下は実在案件ではなく、算術のための設例(仮定値)である。

  • 取得時 EBITDA 10億円、取得倍率(EV/EBITDA)10倍、企業価値100億円。取引費用は無視する
  • 借入は EBITDA の5倍(50億円)、エクイティ50億円
  • 借入金利は基準金利+スプレッド2.5%。基準金利は政策金利と同水準と単純化する
  • 利払い前の手元キャッシュ(税・設備投資・運転資本控除後)は EBITDA の55%、支払利息の税効果30%
  • 余剰キャッシュは全額返済に回し、5年後に取得時と同じ10倍で売却する

EBITDA が年5%成長する場合の結果は次のとおりである。

基準金利借入金利初年度利息(EBITDA比)初年度インタレスト・カバレッジ5年累計利息MOICIRR
0.25%(2024年夏)2.75%1.38億円(13.8%)7.6倍5.44億円2.11倍16.2%
1.25%(現在)3.75%1.88億円(18.8%)5.6倍7.54億円2.09倍15.8%
2.25%(追加利上げを仮定)4.75%2.38億円(23.8%)4.4倍9.71億円2.05倍15.5%

基準金利が1%上がると、5年間の利払いは2.10億円増え、IRR は16.2%から15.8%へ下がる。正確な差は0.32%ポイントである。EBITDA 比の利払いは13.8%から18.8%に膨らむが、リターンへの影響は思ったより小さい。5年で借入の半分強を返済するので利払いの元になる残高が減っていくこと、そして利息の一部が税効果で戻ることが効いている。

PE が目標にしがちな「5年で2.5倍」は IRR に直すと20.1%で、ほぼ「IRR 20%」と同じ水準である。この目標に必要な EBITDA の年成長率は、基準金利0.25%で7.53%、1.25%で7.72%、2.25%で7.91%となる。成長率ではなく出口倍率で稼ぐなら、成長5%のもとで必要な売却倍率は11.46倍、11.58倍、11.70倍と上がっていく。

スプレッドの置き方で水準は変わる。日銀レビューは LBO ファイナンスの金利について、短期金利に連動する変動金利に500〜900bps 程度のスプレッドが上乗せされることが多いと書いている。設例のスプレッドを5.0%に置き換えると、基準金利0.25%で IRR 15.3%、1.25%で15.0%になり、20%に必要な成長率は8.01%と8.21%に上がる。スプレッドが厚いほど出発点のハードルは高いが、基準金利1%分の上昇が押し下げる幅はやはり0.3〜0.4%ポイントにとどまる。

リターンを削るのはレバレッジ、出口倍率、保有期間

金利の直接効果が小さくても、PE のリターン計算が楽になったわけではない。金利が上がると、貸し手は同じ EBITDA に対して貸せる額を抑えにかかる。出口の売却倍率も、買い手側の資金コストが上がれば伸びにくい。設例でこれらを一つずつ重ねると、次のようになる(成長率はいずれも年5%)。

ステップMOICIRRIRR 20%に必要な成長率
(a) 基準金利0.25%、借入5倍、出口10倍2.11倍16.2%7.53%
(b) 基準金利を1.25%へ2.09倍15.8%7.72%
(c) さらに借入を4倍へ1.93倍14.0%9.41%
(d) さらに出口倍率を9倍へ1.71倍11.4%11.41%

金利の上昇(a→b)よりも、借入を1倍減らすこと(b→c)と出口倍率が1倍下がること(c→d)のほうがはるかに大きく効く。借入を4倍に減らすとエクイティは50億円から60億円に増え、インタレスト・カバレッジは7.0倍と安全側に寄るが、同じ成長ではリターンが下がる。

米国の数字も同じ方向を指している。Bain & Company のGlobal Private Equity Report 2026は、2015年の典型的なバイアウトでは買収価格の50%を6〜7%で借りられたのに対し、いまは借入コストが8〜9%、借入比率は30〜40%程度だとする。その結果、5年で2.5倍を得るのに必要な EBITDA 成長率は、10年前の5%から12%に上がったと試算している(米国の例示)。設例の借入金利3.75%は米国の8〜9%よりずっと低いが、レバレッジと倍率が効くという構造は同じである。

保有期間も見逃せない。同レポートによれば、バイアウトファンドの売却時の平均保有期間は7年に近づいている。設例の2.09倍を5年で実現すれば IRR は15.8%だが、7年かかれば11.1%に落ちる。2.5倍でも7年なら14.0%である。売却が遅れること自体が、金利上昇よりも大きくリターンを削る。

2021〜2022年に組成された案件の借換え

マイナス金利下で組成された案件は、金利上昇を正面から受ける。設例として、2021年に50億円をスプレッド2.5%で借り、基準金利が0%だったとする。当時の借入金利は2.50%、年間利息は1.25億円(EBITDA 10億円の12.5%)だった。基準金利が1.25%になれば借入金利は3.75%、年間利息は1.88億円(同18.8%)となり、年0.62億円の負担増になる。

問題は利払いよりも、期限一括返済部分の借換えで表に出る。借入6倍、手元キャッシュ転換率40%と、より重い構造の設例で5年後の姿をみる。

設例5年後の純有利子負債5年後の EBITDA純負債/EBITDA借換え後の年間利息インタレスト・カバレッジ
基準0%のまま、EBITDA年2%成長43.46億円11.04億円3.94倍1.63億円6.8倍
基準1.25%、EBITDA年2%成長45.95億円11.04億円4.16倍1.72億円6.4倍
基準1.25%、EBITDA年3%減少49.01億円8.59億円5.71倍1.84億円4.7倍

計画どおり成長していれば、金利上昇があっても借換え時の負債倍率は4倍台にとどまる。業績が年3%ずつ落ちると、負債はほとんど減らず倍率は5.71倍まで上がり、借換えの交渉は難しくなる。日銀レビューも、出口に至るまでに業績が悪化したり金融環境が変化したりすると、ローンの回収が困難化する可能性があると注意を促している。金利上昇が単独で案件を壊すことは少なく、業績の下振れと重なったときに財務制限条項や借換えの局面で表面化する、と読むのが実態に近い。

PE に会社を売るオーナーが知っておきたいこと

売り手の立場では、PE が提示できる価格の上限が気になる。設例で、IRR 20%を守りながら PE が払える取得倍率(成長5%、借入5倍、出口10倍)を逆算すると、基準金利0.25%で9.25倍、1.25%で9.19倍、2.25%で9.13倍になる。企業価値に直すと92.5億円、91.9億円、91.3億円で、基準金利が1%上がった影響は0.6億円(0.6%)にすぎない。

ここから言えることは三つある。

  • 「金利が上がったから安くしか買えない」という説明は、金利だけでは数字が合わない。価格差の大半は、借入倍率、出口倍率の前提、想定保有期間から来る。提示価格の根拠を聞くときは、どの借入倍率と出口倍率を置いたかを確認したい。
  • 借入が細れば、その分のエクイティを誰が出すかが論点になる。PE が創業者に売却代金の一部を再出資(ロールオーバー)するよう求める場面は増えるだろう。日本の個人株主にとってのロールオーバーの税務は、別稿(創業者ピッチとロールオーバー課税の罠)で扱った。
  • HoldCo ローンやメザニンでレバレッジを積み増せば、表面上の価格は維持しやすい。ただし日銀レビューが指摘するとおり、スキーム全体のレバレッジはそれだけ高まる。売却後も株主として残る場合や、公開買付けの一般株主に向けて価格の公正性を説明する立場にある場合は、資本構成の重さも確認しておきたい。

上場企業の非公開化を含む PE 案件の全体像は、別稿(PE主導の非公開化が加速する日本株市場)も参照されたい。

金利の次に問われる価値創造の中身

基準金利1.25%に設例のスプレッドを乗せても、借入金利は Bain が示す米国の8〜9%に遠く及ばない。設例が示すとおり、日本の LBO にとって金利上昇の直接の打撃は限られる。厳しくなるのは、安い借入と倍率の上昇に頼れなくなった分を、EBITDA の成長で埋めなければならない点である。IRR 20%に必要な成長率は、借入を減らし出口倍率を控えめに置くだけで7%台から11%台に跳ね上がる。

PE にとっては、取得前に描く価値創造計画の実現可能性が、そのままリターンと借入条件を決める。売り手にとっては、提示価格の前提を分解して読み、どの数字が交渉で動かせるのかを見極めることが重要になる。Abundia Advisory は、LBO の資金構成と価値創造の前提を、売り手・買い手のどちらの立場でも数字で検証できる形に落とすことを重視している。