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銀行グループの事業承継投資が上場会社に広がる:2026年6月の銀行法施行規則改正と5%ルールの例外

Bank-Group Succession Investment Now Reaches Listed Companies: Japan's June 2026 Banking Act Ordinance Amendment and the 5% Rule Exceptions

公開 2026.10.08 読了目安 約8分

この記事の要点

2026年6月15日施行の銀行法施行規則改正で、銀行グループの投資専門会社が5%を超えて議決権を持てる「事業承継会社」から非上場要件が外れた。代表者の高齢化などで承継支援が必要になった会社であれば、上場会社でも対象になる。5%・15%ルールと三つの例外類型、改正の中身、オーナー経営者と上場小型株の非公開化への含意、残る論点を条文とパブリックコメント回答に沿って示す。

目次(6項目)

金融庁は2026年6月12日、銀行法施行規則等の改正内閣府令を公布し、6月15日から施行した。改正項目の一つが「事業承継会社については上場企業であっても資金供給を可能とする」である(金融庁 2026年6月12日公表)。

銀行グループの投資専門会社が議決権の5%を超えて出資できる先のうち、事業承継のための支援を受けている会社には、これまで非上場という条件が付いていた。それが外れた。代表者の高齢化などで承継が課題になっている上場会社に対し、銀行グループが株主として資本を入れる道が制度上開いたことになる。上場を維持したままの資本参加に加え、非公開化の場面で銀行系の資金が使われる可能性もある。以下、前提となる5%ルールから順に条文を確認する。

5%ルールと15%ルール

銀行とその子会社は、国内の会社の議決権を合算して「基準議決権数」を超えて取得・保有してはならない。基準議決権数は総株主等の議決権に「百分の五」を乗じた数である(e-Gov 銀行法16条の4第1項)。銀行持株会社とその子会社の場合は「百分の十五」となる(同 52条の24第1項)。

例外はいくつかある。担保権の実行による株式取得などで基準を超えた場合は、超えた部分を原則1年以内に処分する必要があり、延長には内閣総理大臣の承認が要る(同16条の4第2項)。事業の承継や再生にかかわるのは、銀行法16条の2第1項が子会社として保有を認める次の三類型である(同 16条の2第1項12号〜14号)。

銀行法16条の2第1項条文上の表現施行規則上の呼び名と主な要件
12号新たな事業分野を開拓する会社新規事業分野開拓会社。非上場の中小企業者で、設立等から20年以内
13号経営の向上に相当程度寄与すると認められる新たな事業活動を行う会社事業再生会社。民事再生・会社更生の認可、経営改善計画の実施などのほか、事業承継のための支援を受けている会社(第10号)を含む
14号地域の活性化に資すると認められる事業活動を行う会社地域活性化事業会社。非上場で、第三者が関与した事業計画の実施など

これらの議決権を取得するのは、資金供給業務などを専ら営む「特定子会社」、金融庁の表現でいう投資専門会社である(e-Gov 銀行法施行規則17条の2第14項)。銀行法は、12号・14号の会社と、計画要件を満たさない13号の会社(特別事業再生会社)の議決権については、特定子会社を銀行の子会社に該当しないものとみなすと定めている(銀行法16条の4第7項)。

保有期間にも上限がある。特定子会社が取得した議決権は、新規事業分野開拓会社なら取得から15年、事業再生会社と地域活性化事業会社なら10年を「処分基準日」とし、それまでに処分しなければ例外の対象から外れる(銀行法施行規則17条の2第12項)。

事業承継会社とは何か

施行規則17条の2第6項は、13号の会社として10の類型を列挙している。第10号がいわゆる事業承継会社で、条文は「代表者の死亡、高齢化その他の事由に起因して、その事業の承継のために支援の必要が生じた会社であつて、当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている会社」である(e-Gov 銀行法施行規則17条の2第6項10号)。

この類型は2019年10月15日公布・施行の改正で新設された。全国地方銀行協会の規制改革要望を受けたもので、当時は投資専門子会社を経由した保有に限り、保有期間は「最大5年」とされていた(金融庁職員による解説 p.1、p.3)。現行の第12項では、事業再生会社として10年の処分基準日が適用される。

事業再生型の類型と違い、第10号には「事業の再生のための支援」を含む事業計画や第三者の関与といった要件(同条第7項)がかからない。第7項は、要件の対象から「同項第十号に掲げる会社に該当するもの」を除いているからである。また今回のパブリックコメント回答で、金融庁は第10号の「その事業」は「代表者が営む事業」を指すと述べている(金融庁 パブリックコメント回答 No.9)。

2026年6月の改正で何が変わったか

改正前の第6項は、13号の会社を「金融商品取引所に上場されている株式又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式の発行者である会社以外の会社であつて、次の各号のいずれかに該当する会社」としていた(e-Gov 銀行法施行規則(令和8年6月1日施行版))。改正後は「上場会社等以外の会社(第十号に該当する会社にあつては、上場会社等を含む。)」である(同(令和8年6月15日施行版))。非上場要件が外れたのは第10号だけで、事業再生型の第1号から第9号、地域活性化事業会社(第8項)には非上場要件が残っている。

この読み方は、パブリックコメントでも確認されている。第6項の括弧書きは事業承継会社なら上場会社でも特定子会社の取得対象にできる趣旨か、という質問に、金融庁は「ご理解のとおり、事業承継会社の場合には上場会社であっても特定子会社の取得対象となります」と答えた(パブリックコメント回答 No.9)。

案の段階では、銀行持株会社の側(施行規則34条の16第4項)に非上場限定が残っていた。これを指摘したコメントに対し、金融庁は銀行と同様に上場会社等へ出資できるよう修正すると回答した(パブリックコメント回答 p.5)。施行後の第34条の16第4項は、第17条の2第6項第10号に該当する会社について「上場会社等を含む」と定めている(e-Gov 銀行法施行規則34条の16第4項)。

同じ改正には、ほかにも投資専門会社関連の項目がある(金融庁 2026年6月12日公表)。

  • 株式会社以外への資金供給を可能にする。
  • ベンチャー企業へのクロスオーバー投資(非上場会社が上場した後も継続して資金供給すること)を可能にする。出資開始から7年を経過した日以後に上場した場合に、継続して追加出資できる(パブリックコメント回答 p.3)。
  • 投資専門会社の業務範囲にM&A仲介業務を加える。条文上は、事業の譲渡、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付に関する相談や仲介の業務である(銀行法施行規則17条の3第2項14号の3)。

金融庁は改正の背景として、「地域金融力強化プラン」と関係業界団体からの規制緩和要望を挙げている(金融庁 2026年3月13日 意見募集)。案は2026年3月13日から4月12日まで意見募集にかけられ、27件のコメントが寄せられた(2026年6月12日公表)。

オーナー経営者にとっての意味

非上場のオーナー企業にとって、事業承継会社の枠組み自体は2019年からあった。今回の改正で変わるのは、上場しているオーナー企業も同じ枠組みに入れるようになった点である。後継者が決まらない、あるいは創業者の持分の受け皿が見つからない上場会社にとって、選択肢は事業会社への売却、PEファンドによる非公開化、MBOなどだった。ここに、取引銀行のグループが承継計画に沿って株主になる形が加わる。

条文上、出資先の会社は承継計画に基づく支援を受けていなければならない。求められているのは「当該事業の承継に係る計画に基づく支援を受けている」ことで、計画の様式や中身は施行規則に書かれていない。どの程度具体的な計画が必要か、誰が計画を作るかは、実務の積み上げを待つことになる。

上場小型株の非公開化への含意

非公開化の場面では、銀行グループの投資専門会社が対象会社の株式を直接取得するのか、買収目的会社(公開買付者)に出資するのかで、事業承継会社の要件をどの会社について満たす必要があるかが変わりうる。買収目的会社への出資がこの枠で読めるかは条文上明らかでなく、個別に金融庁や法律専門家への確認が要る論点である。そのうえで、実務上注意したい点がいくつかある。

一つ目は利益相反である。銀行が対象会社や買収資金の貸し手でもある場合、株主としての立場と債権者としての立場が衝突しうる。中小・地域金融機関向けの監督指針は、株式等の取得・保有に係るこの二つの立場の利益相反について「Ⅲ-4-12 顧客の利益の保護のための体制整備」を参照するよう求めている(監督指針 新旧対照表 p.2)。融資の返済原資に投資資金が充てられる場合の扱いを問うコメントに対しても、金融庁は「実態に照らして個別具体的に判断される事柄」と答えるにとどめた(パブリックコメント回答 p.6)。

二つ目は保有期間である。事業再生会社としての処分基準日は取得から10年で、これは出口の時間軸を事実上規定する。PEファンドの保有期間と同じ尺度で比べられるものではないが、10年以内に誰に、どう引き継ぐかを、出資時点の計画に織り込んでおく必要がある。

三つ目に、今回の改正は銀行グループの議決権保有規制の改正であり、公開買付け、30%ルール、スクイーズアウトの手続や、特別委員会による公正性担保措置を変えるものではない。出資者が銀行系であっても、少数株主との関係で求められる手続は他の買い手と同じである。

残る論点

条文とパブリックコメント回答から読み取れない点も多い。

  • 「支援の必要が生じた」と言えるのはどの程度の状況か。代表者の高齢化は例示にすぎず、「その他の事由」の範囲は条文からは決まらない。
  • 「その事業」が代表者の営む事業を指すという解釈は、オーナーが代表者でない上場会社や、所有と経営が分かれた会社にどう当てはまるか。
  • 非公開化後に事業承継の計画が終わった場合、あるいは計画どおりに進まなかった場合、処分基準日までの保有をどう説明するか。
  • 非公開化で買収目的会社を使う場合、どの会社が事業承継会社の要件を満たせばよいか。
  • 銀行持株会社の15%ルールとの関係で、グループ内のどの会社がどの枠で保有するかの設計。

事業承継の当事者にとって、資本の出し手の選択肢が一つ増えたことは確かである。ただ、銀行系の資金は、条件の柔軟さと引き換えに、融資関係との利益相反、計画要件、10年の時間軸という制約を伴う。オーナー側は他の出し手と同じ基準で、価格、ガバナンス、出口の三点を比べて判断することになる。