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系統用蓄電池はどう稼ぐのか — 収益スタックと、貸し手・投資家が見る論点

How Grid-Scale Batteries Make Money in Japan: The Revenue Stack and What Lenders and Investors Underwrite

公開 2026.10.08 読了目安 約10分

この記事の要点

系統用蓄電池の収益は、JEPXスポットの値差、需給調整市場のΔkW、容量市場のkW、そして原則20年の長期脱炭素電源オークションという性格の違う収入の積み上げで決まる。2025年度のJEPX実績から4時間蓄電池の値差を計算し、需給調整市場の価格と上限価格の改定、OCCTOの落札結果、系統接続申込みの急増と国の対応を一次資料で確認したうえで、10MW/40MWhの設例で収益スタックと価値の振れ幅を示す。

目次(7項目)

系統用蓄電池は、日本の系統接続の申込みが最も集中している資産である。資源エネルギー庁によれば、足下の接続検討申込みの半数以上を系統用蓄電池が占める。2025年12月末時点で連系済みの系統用蓄電池は約64万kWにすぎないのに対し、接続検討の受付は約17,200万kW、契約申込みの受付は約3,000万kWに達している(資源エネルギー庁 2026年3月27日資料)。接続検討は連系済みの約269倍である。連系済み容量は2024年9月末の約10万kW(資源エネルギー庁 2024年12月2日資料 p.2)から6.4倍に増えた。同じ時点の接続検討受付は約8,800万kWで(同 p.3)、その後1.95倍に膨らんだため、連系済みと申込みの差の絶対量はむしろ広がっている。接続検討のすべてが系統接続に至るわけではない、と資料自身が注記している。

申込みの山に比べて、収益の組み立ては見えにくい。蓄電池は自ら発電しない。安い時間に充電して高い時間に放電する値差、周波数調整の待機に払われる対価、将来の供給力としての対価を、市場ごとに別々に稼ぐ。どれも期間が短く、価格もルールも動く。以下、収入源ごとに一次資料で水準を確かめ、貸し手と投資家が何を見て値段をつけるかを示す。

収益源の地図

収入源何に対する対価か期間・価格の決まり方
JEPXスポット充放電の値差(kWh)前日市場で30分ごとに決まる
需給調整市場調整力の待機(ΔkW)30分ブロックごとの入札、上限価格あり
容量市場(メインオークション)4年後の供給力(kW)年1回のオークション、1年分
長期脱炭素電源オークション新設電源の固定費(kW)原則20年、他市場収益の約9割を還付

前の三つはマーチャント(市場連動)で、最後の一つだけが長期の固定収入に近い。この配合が、借入余力と割引率をほぼ決める。

JEPXスポット:4時間蓄電池の値差を実データで測る

JEPXが公表するスポット市場の30分ごとの約定価格(JEPX 市場情報)を使い、2024年度と2025年度の各日について、最も高い8コマ(4時間)の平均と最も安い8コマの平均の差を計算した。充放電の順序の制約は無視しており、完全予見の理論上限である。

エリア2024年度 値差2025年度 値差2025年度 効率85%考慮後
システムプライス8.99円/kWh8.10円/kWh5.81円/kWh
東京7.89円/kWh7.25円/kWh4.76円/kWh
九州11.13円/kWh9.44円/kWh7.23円/kWh
北海道9.41円/kWh10.77円/kWh8.12円/kWh
東北9.32円/kWh9.46円/kWh7.02円/kWh

(JEPXスポット約定価格から当社計算。往復効率85%は仮定値)

エリア差が大きい。2025年度の東京の値差は九州や北海道より小さく、システムプライスでは前年度より縮んだ。10MW/40MWhの蓄電池を東京で毎日1サイクル回すと、完全予見でも値差収入は年69.5百万円にとどまる。予測誤差を考えて捕捉率を60%と置けば41.7百万円である(仮定値)。値差だけで設備を回収するのは難しい、というのが数字の第一印象になる。

需給調整市場:単価は高いが、上限が下がっている

需給調整市場は、一般送配電事業者が周波数制御と需給調整に使う調整力を調達する市場で、2021年度の三次調整力②から始まり、2024年度に一次調整力・二次調整力①・二次調整力②が加わって全商品の取引が始まった。蓄電池も要件を満たせば全商品に参加できる(EPRX)。一次調整力は応動時間10秒以内・継続時間5分以上、二次調整力①は5分以内・30分である。

2025年度の実績では、一次調整力の平均落札単価は3.9円/ΔkW・30分程度で、調達不足は不足率6割程度と全商品で最も高い。二次調整力①は2.8円/ΔkW・30分で推移した。電源種別では、蓄電池の平均落札単価が高い状態が続いている(EPRX 2025年度の取引実績 p.8、p.11、p.19、p.30)。30分あたり3.9円は、1年の全コマに直すと1kWあたり約6.8万円に相当する。ここが蓄電池の収益の中心になりやすい。

ただし価格の天井は制度で動く。一次調整力・二次調整力①・複合商品の上限価格は、2026年3月13日まで19.51円/ΔkW・30分だったが、3月14日から15.00円、9月1日から10.00円に引き下げられた(EPRX 上限価格)。2025年度の実績資料は、一次調整力で上限価格付近の落札がVPP・蓄電池を中心に一定程度(5.8%)存在すると記している(同 p.13)。高値の落札で平均を押し上げてきた収益モデルほど、上限の引き下げが効く。取引会員資格は2026年3月末で139資格(126社)に増えており(同 p.5)、不足が埋まれば単価は下がる方向に働く。

容量市場と長期脱炭素電源オークション

容量市場のメインオークションは、4年後に必要な供給力をオークションで募集する仕組みである(OCCTO)。蓄電池が安定電源として参加するには放電可能時間3時間以上が必要で、供給力の評価には調整係数が掛かる。2029年度向けの約定価格は、東北・東京エリアで15,111円/kW、中部・北陸・関西・中国・四国エリアで12,388円/kWだった。同オークションの蓄電池の応札容量は169万kWで、全体の1.0%である(OCCTO 約定結果 p.6、p.9、p.30)。1年単位の収入で、翌年の価格は保証されない。

長期脱炭素電源オークションは性格が違う。約定した電源の固定費水準の容量収入が原則20年間得られ、他市場からの収益は可変費に充てたうえで超過分を還付する(OCCTO)。還付額の試算では還付割合90%を使う(2024年度応札 約定結果 p.12)。

蓄電池への競争は激しい。2023年度応札では蓄電池の応札容量455.9万kWに対し落札率24%(2023年度応札 約定結果 p.14)、2024年度応札では695.6万kWに対し20%だった(2024年度応札 p.14)。落札電源一覧の蓄電池を集計すると、2023年度応札は30件・109.2万kW(別紙)、2024年度応札は27件・137.0万kW(別紙)である。2024年度応札からは運転継続時間3時間以上6時間未満と6時間以上に区分が分かれ、蓄電池・揚水は供給力としての価値が限定的であるとして、落札は最大でも各募集上限の2倍までと整理された(2024年度応札 p.10–11)。2025年度応札の契約結果では「リチウムイオン蓄電池・揚水(新設を除く)」が81.9万kWとして別に集計されている(OCCTO 契約結果 p.6)。リチウムイオン電池の短時間型が長期契約を取れる枠は、回を追うごとに狭くなっている。

設例:10MW/40MWhの収益スタック

算術のための設例(仮定値、実在案件ではない)で、配合の違いが価値をどう動かすかを見る。出力10MW・容量40MWh、東京エリア、出力の半分(5MW)を需給調整市場に、残りを裁定に使う。需給調整市場は一次調整力の2025年度平均単価3.9円/ΔkW・30分で、全コマの50%で落札できると置く。容量市場は2029年度の東京エリア価格15,111円/kWに、有効係数0.5を掛ける。設備費は7万円/kWh(2,800百万円)、運営費は年80百万円とする。

項目ベース下振れ
裁定(5MW分)20.810.4(値差半分)
需給調整市場170.887.6(単価2.0円)
容量市場75.60(非落札)
収入合計267.298.0
EBITDA187.218.0
単純回収年数15.0年155.4年

(単位は百万円/年。すべて仮定値による設例)

ベースでは収入の63.9%を需給調整市場が占め、裁定は7.8%にすぎない。下振れでは、需給調整市場の単価が2.0円に下がり、値差が半分になり、容量市場で落札できないと置いただけで、EBITDAは約10分の1になる。収入の大半を最も制度変更の影響を受けやすい市場に頼っている構造が、数字にそのまま出る。

劣化も効く。容量が年2%ずつ減ると仮定すると、10年目の使用可能容量は当初の81.7%(32.7MWh)、15年目は73.9%になる。10年目に40MWhへ戻すには7.3MWhの増設が要り、6万円/kWhなら439.0百万円である(仮定値)。増設費を見込まないモデルは、後半のキャッシュフローを過大に見ている。

長期脱炭素電源オークション型の固定収入を3万円/kW/年と置くと(仮定値)、固定収入300.0百万円に、他市場収益の1割の手残り19.2百万円が加わり、EBITDAは239.2百万円になる。他市場の上振れはほとんど取れないが、下振れからも守られる。

貸し手と投資家が見るところ

マーチャント収入は、貸し手から見ると返済原資として数えにくい。設例のベースEBITDAを15年・割引率5%で現在価値にすると1,943百万円、9%なら1,509百万円だが、下振れでは5%でも187百万円しか残らない。割引率を数ポイント動かすより、どの収入が何年確定しているかの方が価値を大きく動かす。固定収入型なら、4%で2,659百万円、5%で2,482百万円になる。同じ設備でも、契約の形でWACCと借入比率が変わる。

デューデリジェンスで確かめる点は次のとおりである。

  • 系統接続:接続契約の条件と連系時期、充電制限の有無。国は、特定の断面(時間帯)の充電制限に同意することを前提に系統増強なしで接続を認める早期連系追加対策を導入した(資源エネルギー庁 2024年12月2日資料 p.5)。制限の時間帯と値差・調整力の稼げる時間帯が重なれば、収入はモデルより減る。
  • 系統アクセス手続:国は一事業者あたりの接続検討数に上限を設ける方針で、平均値+2σか5件の高い方を上限とする案を示した。契約申込みは発電側と需要側の両方の受付が要件になる(資源エネルギー庁 2026年3月27日資料)。接続権を前提に組んだ開発案件は、申込みの順位と期限の管理が価値そのものになる。
  • 市場ルール:需給調整市場の上限価格、募集量、商品設計の改定履歴と予定。収益モデルの単価がどの時点の上限を前提にしているか。
  • 運用と契約:アグリゲーターやトレーディング契約の手数料、収益分配、最低保証(フロア)の有無と相手方の信用力。
  • 設備:セル・PCSの調達先、保証範囲、劣化保証と増設計画、火災・安全対策。
  • 長期契約:長期脱炭素電源オークションの落札案件なら、落札電源ごとに異なる供給力提供開始時期と制度適用期間(2024年度応札 約定結果 p.16)、契約上の義務と未達時の扱い。

貸し手は、こうした論点を返済余力のコベナンツとキャッシュの積立(リザーブ)に落とし込む。マーチャント比率が高い案件では、借入期間を短くし、DSCRの基準を固定収入部分だけで満たすよう求めるのが自然な帰結になる。

固定収入の比率で値段が決まる

系統用蓄電池の評価で最初に問うべきなのは、何MWhかではなく、収入のうち何割が何年確定しているかである。2025年度の実績で見れば、需給調整市場は蓄電池にとって最も厚い収入源だったが、上限価格は2026年の半年ほどの間に19.51円から10.00円に下がった。長期脱炭素電源オークションは20年の固定収入を与える代わりに上振れを取り上げ、落札率は2割台にとどまる。接続を待つ案件は連系済み容量の269倍ある。

買い手と売り手が合意すべきは、市場価格の見通しそのものではなく、収入の種類ごとに異なる割引率と、制度改定のリスクを誰が負うかである。DCFは収入源別に分けて組み、マーチャント部分には下振れシナリオを必ず並べる。そこまでやって初めて、申込み件数の多さと投資価値の大きさを区別できる。