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営農型太陽光を事業として売買するときの論点 — 一時転用許可、FIT/FIP、地域説明を価値に落とす

Agrivoltaics as an Investable Business in Japan: Pricing Farmland Permits, FIT/FIP and Local Consent

公開 2026.10.08 読了目安 約10分

この記事の要点

営農型太陽光(ソーラーシェアリング)は、農地の一時転用許可という期限付きの許可の上に成り立つ発電事業である。2024年4月の農地法施行規則改正、2027年4月に予定される農山漁村再エネ法ベースへの移行、地上設置太陽光のFIT/FIP新規支援の終了、再エネ特措法の説明会制度と密接関係者の変更手続を一次資料で確認し、買い手・売り手が見るべきDD論点と、それが割引率やキャッシュフローにどう効くかを設例で示す。

目次(8項目)

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を投資対象として見るとき、最初に押さえるべきなのは、これが「土地を所有して20年動かす発電所」ではないという点である。農地に支柱を立てる部分は一時転用許可で認められており、その許可には期限がある。期限が来るたびに、下の農地で営農が続いているかを行政が確かめ、再許可するかどうかを判断する。FITやFIPの認定期間がどれだけ残っていても、営農が続かず事業が止まれば、支柱を含む設備を撤去して農地に戻すことになる(ガイドライン p.7)。

この事業の価値は、売電単価と発電量だけでは決まらない。許可を更新し続けられる確率、営農を担う人と契約、地域の合意という、財務諸表に載りにくい要素に左右される。しかも2026年から2027年にかけて、農地制度と再エネ支援制度の両方が大きく動いている。以下、一次資料で制度の現在地を確認したうえで、M&Aでの見方を示す。

制度の骨格:期限付きの一時転用許可

農林水産省は、営農型太陽光を「一時転用許可を受け、農地に簡易な構造でかつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光を電気に変換する設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う事業」と定義している(ガイドライン p.3)。それまで通知で運用していた許可基準は、2024年4月1日施行の農地法施行規則の改正で省令に格上げされ、具体的な取扱いは同日施行のガイドラインに定められた(農林水産省)。

許可期間は区分で決まる。担い手(認定農業者等)が営農する場合、遊休農地を再生利用する場合、第2種・第3種農地を使う場合は10年以内、それ以外は3年以内である(ガイドライン別表 p.11)。許可の前提となる「営農の適切な継続」は、下部農地の単収が同じ市町村の平均的な単収と比べて「おおむね2割以上減少」しないこと、つまり平均の8割程度を確保することを核にしている(省令 第47条第6号イ)。支柱の高さは最低地上高2メートル以上が求められ、毎年の栽培実績と収支は翌年2月末日までに報告する(ガイドライン p.5、p.7)。

M&Aに直接効く規定が二つある。一つは、事業を第三者に承継する場合に遅滞なく報告する義務(ガイドライン p.7)。もう一つは、設置者と営農者が異なる場合に、下部農地への地上権等の設定について農地法第3条の許可が必要で、その期間は一時転用期間と同じにすると定めている点である(ガイドライン p.10)。土地の権利も、許可と同じ周期で切れる。

統計で見る市場:再許可がすでに新規を上回る

農林水産省の集計では、2013年度から2023年度までの新規許可は累計6,137件、下部農地の面積は1,361.6haである。2023年度の新規許可は791件で、伸びは緩やかになった。一方で同年度の再許可は952件と新規を上回り、再許可の累計は4,238件に達している(設置状況 p.3)。1件あたりの下部農地は平均22.2aと小さく、市場は小口案件の集積である。

設置者の73%(4,323件)は発電事業者で、農業者・農地所有者は27%にとどまる。発電事業者が設置する場合でも、売電収入の一部を営農維持費や賃借料として農地所有者や農業者に還元するケースがある(同 p.5)。設置者と営農者が分かれているのが通例であり、営農者との契約がそのまま事業の継続条件になる。

注意すべき数字もある。2023年度末で下部農地の営農に支障があった案件は24%(1,221件)で、前年度と比べて2%上昇した。支障の71%(872件)は営農者に起因する単収減少・生育不良である(同 p.7)。栽培作物はさかき・しきみが32%(1,901件)を占める(同 p.8)。買い手から見れば、4件に1件は再許可の場面で説明を要する状態にある。

2027年4月の転換:農山漁村再エネ法の認定が入口になる

農林水産省は2026年4月15日の「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」で、制度の重心を農地法から農山漁村再エネ法に移す案を示した。基本方針の改定案は、遮光率30%未満、最低地上高おおむね3メートル以上、支柱間隔おおむね4メートル以上、栽培品目で50万円以上の生産・販売実績を持つ営農者、発電事業者から営農者等への「適正な利益還元」を求めている(検討会資料 p.4)。

これを受けて2026年7月24日に意見募集にかけられた省令案では、営農型の農地転用について、農山漁村再エネ法「第七条第三項の認定の見込みがないこと」を不許可の事由とし、施行日を令和9年(2027年)4月1日としている(省令案 p.5、p.10、e-Gov)。市町村の設備整備計画の認定が実質的な入口になるため、市町村が営農型を位置づけた基本計画を持っているかが案件組成の前提条件になる。

既存案件にも影響が及ぶ。省令案の附則は、施行前に許可を受けた者が同一事業のために再び許可を受ける場合、当分の間は改正前の規定を適用するとしている(省令案 p.11)。ただし検討会資料は、既存事業者にも「最大限、厳格に対応する」とし、国が関与する現地調査の対象を4haから2haに引き下げること、一時転用許可期間の短縮によるチェック強化を挙げている(検討会資料 p.7)。勧告の段階でFITも一時停止、許可取消・撤去の段階でFITも取消という流れが図示されている(同 p.8)。経過措置があっても、更新審査が緩くなるわけではない。

収入源:FIT/FIP、PPA、市場売電

収入の柱は再エネ特措法の支援である。2026年度の事業用太陽光は、入札対象外の50kW以上(地上設置)が9.6円/kWh、10kW以上50kW未満が9.9円/kWhで、期間は20年である(資源エネルギー庁)。FIPでは、基準価格から参照価格(市場取引等で期待される収入)を差し引いた額がプレミアムとして月ごとに交付される(OCCTO)。2026年度と2027年度は50kW以上がFIP制度のみの対象である(調達価格等に関する報告 p.33–34)。

10kW以上50kW未満のFIT認定には自家消費等の地域活用要件があるが、農地一時転用許可が3年間を超える営農型は、自家消費をしなくても災害時活用を条件にFITの対象になる(同 p.95 脚注23)。許可期間の区分が、使える支援制度まで左右する。

より大きな変化は、事業用太陽光(地上設置)が2027年度以降、FIT/FIPの支援区分の対象外とされたことである(同 p.93)。これから認定を受ける案件の区分の話で、既に認定を受けた案件については、FIP制度への移行を通じた市場統合を促す方針が併せて示されている(同 p.99)。2027年度以降の太陽光への具体的な支援のあり方は「来年度の本委員会において検討・決定」とされた(同 p.20)。新規の営農型案件がどの支援を受けられるかは、執筆時点で確定していない。同じ報告は、PPAによる収益確保等で「FIT/FIP 制度によらない案件の形成も見られる」ことを指摘している。農林水産省も、FIT調達価格が「10円/kWh程度まで下落」し、出力制御エリアが全国に拡大しているとして、FIT/FIPのみに依存しない導入を課題に挙げる(検討会資料 p.16)。既存案件の価値の大半はFIT/FIP期間にあり、新規案件はPPAと市場売電を前提にした収支を組む必要がある。

再エネ特措法:説明会と、株主が変わるときの手続

2024年4月から、再エネ特措法の認定には説明会等の実施が要件として組み込まれた。資源エネルギー庁は、必要な各時期に要件を満たす説明会等が実施されない限り「FIT/FIP認定を受けることはできません」と明記している(資源エネルギー庁)。

M&Aで見落とされやすいのが、認定事業者の株主の変更である。資源エネルギー庁は、密接関係者の変更には変更認定申請が必要だと注意喚起している(資源エネルギー庁)。手続の整理表では、認定事業者が株式会社の場合に「議決権の過半数を保有する株主について変更があった場合」が対象として挙げられ、変更前後の株主名簿の写しを添付する(整理表 p.2)。変更認定申請に伴って説明会等が必要になる場合の資料提出にも触れている(同 p.1)。株式譲渡であっても、手続上は事業者の実質が変わる取引として扱われる。クロージング条件と前提条件のスケジュールに組み込んでおく必要がある。

設例:価値はどこに乗っているか

算術のための設例(仮定値、実在案件ではない)で、価値の所在を確かめる。出力1,000kW、初年度発電量120万kWh、年0.5%の劣化、FIT単価14円/kWhで残存12年、FIT終了後に8年運転して8円/kWhで売電する。運営費は年3.0百万円(O&M、地代・営農協力金、保険等)、最終年に撤去費用10百万円を見込む。割引率はFIT期間5%、FIT終了後7%とする。

項目結果(設例)
初年度の売電収入16.8百万円
初年度のキャッシュフロー13.8百万円
FIT期間のPV118.7百万円
FIT終了後のPV16.4百万円
合計PV135.1百万円(FIT終了後の比率12.1%)

感応度を並べると、出力制御で発電量が5%減ると合計PVは6.5%下がり、FIT終了後の単価が6円になると5.5%下がる。FIT終了後の割引率を9%に上げても0.7%しか動かない。

効き方が違うのが許可の継続である。3年ごとの更新で、各回10%の確率で再許可が得られず、その時点で撤去すると仮定する。20年間を通じて許可が続く確率は53.1%にとどまり、期待PVは111.5百万円、ベースから17.5%下がる。同じ10%でも10年区分なら更新は1回で、継続確率は90.0%である。残存期間の長いFITが付いた案件ほど、価値の大半が許可の継続という一点に乗っている。

DDで確かめること

  • 許可:区分(3年か10年か)、許可日と満了日、再許可の履歴、2024年4月以降の新制度適用か旧通知の適用か、行政指導・勧告の有無。2027年4月以降の更新で何が審査されるかを、所在市町村の基本計画の策定状況とあわせて確認する。
  • 営農:毎年の栽培実績書と収支報告書、地域平均単収との比較、作物と販路、営農者の経営状況と後継者。基本方針の改定案が求める「原則毎年収穫可能な品目」や、一般的な販売ルートが確立している品目に当たるか(検討会資料 p.4)。
  • 土地と営農者との契約:地上権等の設定期間と農地法第3条許可、地代・営農協力金の水準と改定条項、営農者が離脱したときの代替手当て。
  • FIT/FIP:認定単価と残存期間、変更認定・変更届出の履歴、株主変更に伴う変更認定申請の要否、説明会等の実施記録。
  • 系統と出力制御:接続契約の条件、出力制御の実績と見通し、オンライン制御への対応。
  • 撤去費用:調達期間・交付期間の終了前10年間で積み立てる廃棄等費用の積立状況(調達価格等に関する報告 p.26)と、ガイドラインが求める撤去の資力。

許可の継続性に値段をつける

営農型太陽光のバリュエーションで最も誤りやすいのは、許可の更新リスクを割引率(WACC)に一律に上乗せして済ませることである。更新は特定の時点で起きる二値の事象であり、割引率を上げても設例のように価値の配分がFIT期間に集中していると数字はほとんど動かない。更新時点ごとの継続確率をキャッシュフローに掛け、失敗時の撤去費用を明示する方が、論点が見える。

FIT終了後のキャッシュフローは、ターミナルバリューのように永続成長で伸ばすものではない。許可期間、地上権の期間、設備の寿命のうち最も短いものを上限に、PPAか市場売電の単価で別に組む。そのうえで、価格調整、再許可や変更認定を前提条件とする条項、営農実績に関する表明保証、更新結果に連動する後払い(アーンアウト)で、売り手と買い手のどちらが更新リスクを持つかを決める。DCFの精度より、この配分の設計で取引条件は大きく変わる。