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Business Succession Published: 2026.04.24

後継者不在率は下がっているのに休廃業は過去最多——二極化する承継市場

The Succession Paradox: Coverage Improves as Closures Hit Records

帝国データバンクの2025年調査では後継者不在率が50.1%と過去最低を更新した。一方、東京商工リサーチの集計では2024年の休廃業・解散件数が62,695件と初の6万件超を記録した。この二つのデータが両立する構造と、経営者が取るべき意思決定の順序について論じる。

2025 年 11 月、帝国データバンクが公表した「全国後継者不在率調査」は、後継者不在率 50.1%(前年比 −2.0pt)という数字を示した。5 年連続の改善で過去最低である。同じ年、東京商工リサーチが集計した 2024 年の 休廃業・解散件数は 62,695 件、初の 6 万件超で過去最多を更新した。後継者難倒産も 462 件で過去最多である。

この 2 つのデータは、一見すると矛盾しているように見える。後継者が見つかるようになっているなら、廃業は減るはずではないか。しかし現場の実務感覚では、両者は同時に起きている現象として矛盾なく理解できる。以下、なぜこの「承継パラドクス」が生じるのかを辿り、経営者が自社の立ち位置を判断するための切り口を示す。

奇妙な 2 つのデータ

数字を並べて確認する。

指標最新値出所
全国後継者不在率50.1%帝国データバンク2025年
非同族後継者の比率41.0%帝国データバンク2025年
内部昇格による承継36.1%帝国データバンク2025年
同族承継32.3%帝国データバンク2025年
休廃業・解散件数62,695 件東京商工リサーチ2024年
同 代表者 70 歳以上比率87.6%東京商工リサーチ2024年
廃業時赤字率48.5%東京商工リサーチ2024年
後継者難倒産462 件東京商工リサーチ2024年

TDB が示すのは「承継者の確保ができた企業」の割合であり、TSR が示すのは「事業の継続を断念した企業」の件数である。母集団が重なっていない。したがって両者は構造的に両立する。ただし両立するという事実以上に重要なのは、何が両者を分けたかである。

両立する理由:着手の有無

承継に関する意思決定は、「誰に渡すか」よりも手前の「渡すかどうか」「いつ渡すか」「何を整えてから渡すか」という準備フェーズが本質的である。

改善している TDB の数字は、この準備フェーズを数年前までに通過した企業群の結果である。一方、TSR の 2024 年の廃業企業の代表者 70 歳以上が 87.6%、廃業時赤字率 48.5% という数字は、準備フェーズに着手できないまま経営者が高齢化し、業績が悪化するなかで意思決定の時間を失った企業群の現実を示している。

この構造は、単に「M&A 仲介会社や引継ぎ支援センターを使えば後継者が見つかる」という話ではない。使える状態にするまでの準備に 3〜5 年の時間が必要な点こそが、二極化を生む本質である。

廃業企業の輪郭

2024 年に休廃業・解散した 62,695 社の内訳を少し詳しく見ると、承継市場に踏み込めなかった企業の輪郭が見えてくる。

  • 代表者 70 歳以上 87.6%:意思決定の体力が残された時間の短さ
  • 廃業時赤字率 48.5%(過去最悪):企業価値算定(Business Valuation)の時点で買い手が付きにくい水準
  • 後継者難倒産 462 件:赤字ではなく承継不能で倒産処理に至るケース

黒字のうちに承継検討に着手できた企業と、赤字に転じてから検討を始めた企業では、M&A 仲介・FA(Financial Advisor)による買い手探索の難易度が桁で変わる。買い手候補が案件を評価する際、直近 3 期の業績はデューデリジェンス(Due Diligence)の起点であり、赤字期の存在は価格形成を大きく引き下げる。

つまり、後継者不在率が改善している市場においても、赤字化する前に準備を始めた企業だけがその改善の恩恵を受けている、というのが構造の正確な表現である。

内部昇格の台頭が意味すること

2025 年の TDB 調査で目を引くのは、非同族後継者が初めて 40% を超えた(41.0%)という点、そして 内部昇格(36.1%)が同族承継(32.3%)を初めて上回ったという点である。

これは何を意味するか。親族内承継が成立しなくなった企業において、第一の代替選択肢が「外部売却(M&A)」ではなく、「社内の役員・幹部への承継」である、という現実である。内部昇格は、社長という職位の承継だけでなく、株式の承継を伴う。多くの場合、後継候補は株式買取資金を自己負担できないため、MBO(Management Buy-out)ストラクチャーが必要になる。

つまり、承継実務は過去 10 年で、次のような重心移動をしている:

  • 2010 年代前半: 親族内承継が圧倒的、M&A は例外的
  • 2010 年代後半: 第三者 M&A が社会的に認知
  • 2020 年代半ば以降: 内部昇格 + MBO が親族内承継を上回る

MBO を成立させるには、金融機関の融資余力評価、個人保証の設計、株式価値算定、既存大株主(創業家・親族)との利害調整、すべてを同時並行で進める必要がある。中小企業の内部昇格 MBO が増えているという事実は、中小 M&A 実務の高度化を要求しているという意味でもある。

経営者が取るべき意思決定の順序

ここまでの議論を、経営者の意思決定の順序として翻訳する。

一般に、承継検討は「後継者候補を決めてから、買い手や支援機関に相談する」という順序で進められがちである。しかし、実務では逆の順序の方が結果が安定する。

  1. 現状の財務・事業ポジションを棚卸する(企業価値・個人保証・不動産・役員借入の整理)
  2. 承継の選択肢を理論的に並べる(親族内 / 内部昇格 MBO / 第三者 M&A / 廃業)
  3. 各選択肢の 5 年後の見え方を試算する(業績計画の感応度分析)
  4. 選択肢を選ぶ
  5. 選択肢に対応する準備を実行する
  6. 候補先を探す・選定する

1〜3 をスキップしたまま 6 にいきなり入ると、候補先が現れても意思決定の基準が持てず、意思決定が後ろ倒しになる。その間に経営者は 1 歳ずつ年齢を重ね、業績は経営者の関心分散によって劣化する。ここに、準備フェーズを 3〜5 年前倒しにする価値がある。

独立アドバイザーの役割

この準備フェーズを支援する立場は、M&A 仲介会社・地域金融機関・税理士・独立アドバイザーの複数が存在する。いずれを選ぶかは、経営者が何を決めきれていないかに依存する。

  • 後継者候補がすでに内定している → 税理士・弁護士による承継スキームの法務税務設計が中心
  • 親族内候補も内部候補もいない → M&A 仲介会社・引継ぎ支援センターによる候補探索
  • 選択肢が絞れていない / 複数案を比較検討したい → 独立 FA / アドバイザーによる中立的な選択肢整理

Abundia Advisory が担うのはこの 3 番目のフェーズ、承継ルートが定まる前の戦略的意思決定そのものへの並走である。仲介会社は案件成立時に対価を得る構造上、「選択肢を絞らない支援」に時間を割けない。独立アドバイザーがこの役割を担うことで、経営者は意思決定を数年前倒しにできる。

準備の前倒しが効く理由

「後継者不在率は下がっているのに休廃業は過去最多」という一見のパラドクスは、承継に着手できた企業群と、できなかった企業群の二極化を映している。両者を分けた最大の因子は、後継者候補の有無ではなく、準備フェーズに何年前から着手したかである。

5 年後・10 年後に自社がどちら側に立っているかは、相手(候補先)を探し始める時点ではすでに決まっている。意思決定の順序を見直す対話は、早ければ早いほどレバレッジが大きい。