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Business Succession Published: 2026.07.07

上場M&A仲介3社のIRを読む:成約件数・単価・モデルの分岐

Reading the IR of Japan's Listed M&A Intermediaries: Deal Counts, Fees, and Diverging Models

2026年4月30日、日本M&AセンターHD・ストライクグループ・M&Aキャピタルパートナーズの決算開示が同日に重なった。最大手は成約件数を減らしながら単価を上げ、2位グループは件数を2割伸ばし、人員生産性の推計には1.8倍の開きが出る。3社のIRに表れたモデルの分岐と、売り手オーナーが相談先を選ぶ際のチェックポイントを読み解く。

2026 年 4 月 30 日、上場 M&A 仲介の主要 3 社の決算開示が同じ日に重なった。日本M&AセンターHD(2127)の 2026 年 3 月期通期、ストライクグループ(6196、旧ストライク)と M&Aキャピタルパートナーズ(6080)の 2026 年 9 月期中間期である。3 社を並べて読むと、同じ「仲介」の看板の下で、件数を取るのか単価を取るのか、人員をどう張るのかという戦略の分岐が、はっきり数字に表れている。売り手オーナーにとってこの分岐は他人事ではない。どの相談先を選ぶかは、自社の案件がその会社の主戦場に入っているかどうかの問題だからである。

3社の直近数字

各社の開示から主要指標を並べる。決算期が揃っていない点(2127 は 2025 年 4 月〜2026 年 3 月の通期、6196・6080 は 2025 年 10 月〜2026 年 3 月の半期)と、成約の数え方の定義が各社で異なる点に留意が必要である。

指標日本M&AセンターHD(2127)ストライクグループ(6196)M&Aキャピタルパートナーズ(6080)
開示期間2026年3月期 通期2026年9月期 中間期2026年9月期 中間期
売上高502.6 億円(+14.0%)97.4 億円(+8.8%)134.5 億円(+17.3%)
営業利益187.6 億円(+12.2%)27.0 億円(+10.7%)52.0 億円(+20.1%)
成約件数1,061 件(前年比 17 件減)133 組 / 256 件(前年 130 組 / 249 件)138 件(前年 114 件、+24 件)
単価4,570 万円(1件当たりM&A売上高)7,320 万円(案件単価、1組当たり)約 9,700 万円(推計:売上収益÷成約件数)
コンサルタント数決算短信に開示なし360 名(単体、2026年3月末)276 名(連結、前年比+34名)

ストライクグループは 2026 年 4 月 1 日付で会社分割により持株会社体制に移行し、商号を変更した(M&A 仲介事業は子会社の新ストライクが承継)。同社は成約を「組数」と「件数」の 2 つの単位で開示しており、他社の「件数」とは定義が揃わない。単価も、2127 は M&A 売上高を件数で割った会社開示値、6196 は会社開示の案件単価(組当たり)、6080 は会社開示がないため売上収益を成約件数で割った当方推計であり、6080 の連結売上収益には M&A 仲介以外の情報サービス等も含まれるため実際の成約単価より高めに出ている可能性がある。横比較は水準感の目安に留めるべきだが、それでも 4,000 万円台から 1 億円弱まで単価の階段が付いている構図は動かない。

分岐1:件数を取るか、単価を取るか

最大手の日本M&AセンターHD は、成約件数 1,061 件と前年から 17 件減らした。一方で 1 件当たり M&A 売上高は前期の 3,960 万円から 4,570 万円へ上昇し、増収増益を確保している。同社は決算短信で、譲渡案件の新規受託件数が 1,281 件と前年の 1,432 件から減ったことに触れつつ、受託の方針を量の拡大から成約可能性の重視へ転換したと説明している。件数成長を追う局面は終わり、案件の選別と単価で稼ぐ体制への移行が、最大手自身の開示に明記された形である。

対照的に M&Aキャピタルパートナーズは、中間期の成約件数を前年の 114 件から 138 件へと 2 割伸ばした。うち同社が大型案件(1 件 1 億円以上)と区分する成約は 32 件で、推計単価約 9,700 万円という水準は、もともと大型・高単価志向だった同社のモデルがそのまま維持されていることを示す。通期予想は売上収益約 270 億円(+20.2%)、営業利益 102.8 億円(+44.3%)と強気であり、大型化と件数成長を同時に取りにいく構えである。

ストライクグループは中間期の成約組数 133 組(前年 130 組)と横ばい圏ながら、案件単価は 6,880 万円から 7,320 万円へ上昇し、1 組 1 億円以上の大型案件も 23 組から 26 組へ増えた。3 社に共通するのは、単価の上昇である。中小 M&A 市場の裾野拡大を件数で刈り取るフェーズから、案件規模と成約確度で選別するフェーズへ、業界全体の重心が移っている。

分岐2:人員拡大の踊り場と生産性の開き

人員面では、両社の差が興味深い。ストライクグループは年間 55 名のコンサルタント増員計画に対して中間期時点で 17 名の未達となり、単体コンサルタント数は 360 名である。M&Aキャピタルパートナーズは連結コンサルタント数 276 名と前年から 34 名増やしており、採用の勢いに差が出ている。日本M&AセンターHD は決算短信にコンサルタント数の記載がなく、この比較には加えられない。

生産性を粗く推計すると、差はさらに際立つ。6196 と 6080 の開示期間は 2025 年 10 月〜2026 年 3 月で完全に一致しているため、半期売上をコンサルタント数で割ると、ストライクグループが 1 人当たり約 2,700 万円、M&Aキャピタルパートナーズが約 4,900 万円と、約 1.8 倍の開きになる。分母・分子の定義差(6080 の売上には情報サービス等が含まれ、コンサルタント数は連結)を踏まえても、1 人のコンサルタントが少数の大型案件に張るモデルと、より多くの案件を並行して回すモデルの違いは方向として読み取れる。

売り手にとっての含意は 2 つある。第一に、業界全体でコンサルタントの採用競争が続いており、担当者の経験値のばらつきが大きい局面にあること。会社の看板ではなく、担当個人の在籍年数と成約実績を確認する価値は、拡大期の今ほど高い時期はない。第二に、担当者 1 人が抱える案件数はモデルによって異なり、自社の案件にどれだけ時間が張られるかも変わってくることである。

分岐3:クロージングまでの時間という新しい変数

ストライクグループは通期売上予想を期初の 243.5 億円から 225.2 億円へ下方修正した。理由として同社が挙げるのが、買手企業に占める上場企業割合の増加と、最終契約締結からクロージングまでの期間の長期化である。ガバナンスの効いた買手ほどデューデリジェンス(Due Diligence)や社内手続きに時間をかけるため、成約の期ずれが業績に直撃する。完全成功報酬型のモデルは着手金収入のクッションがない分、この変数に敏感である。

売り手側から見れば、これは仲介会社の業績問題ではなく自分のスケジュール問題である。最終契約に署名してからクロージングまでの期間が延びる傾向は、資金の受け取り時期、従業員への開示タイミング、経営者保証の解除手続きの段取りに直接影響する。工程表は基本合意から最終契約までではなく、クロージング後の引き継ぎまで含めて設計しておきたい。

規制の現在地:資格制度の創設方針

業者選定の環境も動いている。中小企業庁の中小 M&A ガイドライン第 3 版(2024 年 8 月改訂)がテール条項・手数料透明化・利益相反開示の水準を引き上げたことは以前の解説で扱った。経営者保証を M&A の障害にしない方向付けも、同ガイドラインと金融行政の双方で既定路線になりつつある。

さらに 2026 年 3 月、中小企業庁は「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」を公表し、M&A 仲介・アドバイザーの個人資格試験を 2026 年度に創設する方針を示した。仲介会社単位の登録制度(M&A 支援機関登録制度)に加えて、担当者個人の水準を測る仕組みが入ることになる。もっとも、資格や登録は最低限のスクリーニングであり、上で見たようなモデルの分岐、つまり自社の案件がその会社・その担当者の主戦場かどうかまでは教えてくれない。

売り手オーナーのチェックポイント

3 社の IR から読み取れる構造変化を、相談先選びの確認項目に落とすと次のようになる。

  1. 単価レンジとの適合:3 社の単価は 4,000 万円台から 1 億円弱まで階段が付いている。手数料水準は概ね案件規模に連動するため、自社の想定譲渡規模がその会社の主戦場から外れていると、優先順位を下げられるリスクがある
  2. 報酬体系の構造:完全成功報酬か、着手金・中間金を取る体系か。成功報酬の料率だけでなく「取引金額」の定義と最低手数料を契約書レベルで確認する
  3. 担当者個人の実績:採用拡大期はコンサルタントの経験値の分散が大きい。在籍年数・成約実績・自社と同規模の案件経験を面談で確認する
  4. 仲介か FA か:両手仲介か、売り手側のみの Financial Advisor か。両手の場合は利益相反の開示と情報の流れを契約前に確認する
  5. スケジュールの現実性:最終契約からクロージングまでの長期化傾向を織り込み、資金受領・保証解除・引き継ぎまでの工程表を最初に作る

仲介 3 社の決算は、業界が件数の成長期から選別と単価の時代に入ったことを示している。売り手にとって重要なのは、この変化の中で自社の案件がどう扱われるかを、契約前に見極めることである。

Abundia Advisory は、仲介会社から独立した売り手側アドバイザーとして、相談先の選定・仲介契約のレビュー・企業価値評価(Business Valuation)のセカンドオピニオンを通じて、承継の意思決定に並走する役割を担う。