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Market & Capital Events Published: 2026.04.20

TOB→株式併合→自己株式取得:みなし配当スキームの実務整理

Deemed Dividend Scheme in Take-Privates: A Practitioner's Primer

非公開化案件で頻出する『公開買付価格より低い自己株式取得価格』の設計は、みなし配当益金不算入を活用した税効率的スキームである。KKR × 太陽HD、MBK × ソラストでの具体設計を題材に、スキーム全体像と実務論点を読み解く。

非公開化 TOB の開示を読んでいて、「公開買付価格 4,750 円に対し、自己株式取得価格は 3,678 円」といった不均衡な数字を目にすることがある。KKR × 太陽 HD(4626)案件、MBK × ソラスト(6197)案件、大東建託 × THE グローバル社(3271)案件など、2026 年 3〜4 月に進行している複数の大型非公開化でこの構造が採られている。

一見、不応募合意株主(通常は既存大株主)が損をしているように見えるが、実際には税引後手取りベースで公開買付価格と同額になるよう設計されている。背景にあるのは「みなし配当益金不算入」を活用した税効率的スキームで、日本の PE 主導非公開化ではほぼ定型化している。

本稿は特定の税務アドバイスを提供するものではない。実際の案件では、法人税法・所得税法・租税条約の適用を税務アドバイザーに確認したうえで設計される。

スキーム全体像

典型的な設計は次の 3 ステップで構成される。

  1. 公開買付(TOB):公開買付者(SPC 等)が対象会社株式を市場外で買付け。応募株主には現金が交付される
  2. 株式併合によるスクイーズアウト:TOB 不成立株主を含む残存少数株主を、株式併合(1 株未満の端株処理)により排除。株主総会特別決議(2/3 以上)で承認
  3. 不応募合意株主向け自己株式取得:TOB に応募しなかった不応募合意株主(通常、既存の大株主・創業家・親会社)から、対象会社が自己株式として買い戻す

3 ステップ目の自己株式取得価格が、TOB 価格より大幅に低く設定されるのが本スキームの特徴である。

なぜ自己株式取得価格が低く設計されるか

自己株式取得の対価のうち、対象会社の資本金等相当額を超える部分は、税法上「みなし配当」として扱われる。法人株主が受け取るみなし配当は、益金不算入(受取配当等の益金不算入制度、法人税法第 23 条)の対象となり、対象会社株式の保有期間・保有割合に応じて 20%〜100% が益金から除外される。

一方、同じ金額を TOB で受領すると、譲渡益として課税される(法人税率約 30% が丸ごとかかる)。つまり:

  • TOB で 4,750 円受領 → 譲渡益課税(簿価との差額 × 30%)
  • 自己株式取得で 3,678 円受領(うち大半がみなし配当)→ 配当相当部分は益金不算入、譲渡損益部分のみ課税

税引後手取額を合わせるよう自己株式取得価格が計算されており、結果として受領総額は公開買付者が TOB で支払った場合より小さく、対象会社のキャッシュアウトも抑制される。公開買付者・対象会社・不応募合意株主の三者で、税務上のアービトラージを分け合う構造である。

2026 年春の具体例

KKR × 太陽ホールディングス

  • 公開買付価格:4,750 円
  • DIC 向け自己株式取得価格:約 3,678 円
  • 光和(創業家資産管理会社、6.35% 保有)向け:約 3,492 円
  • 光和は公開買付者親会社への再出資も予定(ロールオーバー)

DIC と光和は長期保有で簿価が低く、譲渡益課税を避けたい強いインセンティブを持つ。公開買付者側も、対象会社のキャッシュアウトを圧縮できることで、買収資金(デット・エクイティ)総額を抑えられる。

MBK × ソラスト

  • 公開買付価格:1,119 円
  • 大東建託(筆頭株主 35.07% 保有)向け自己株式取得価格:776 円
  • 従業員持株会は三角株式交換を通じたロールオーバー

大東建託保有分は巨額で、譲渡益課税の影響が特に大きい。自己株式取得とみなし配当スキームにより、税引後手取額が公開買付価格相当になるよう調整されている。

大東建託 × THE グローバル社

  • 公開買付価格:1,280 円
  • SBI ホールディングス(51.95% 保有の親会社)向け自己株式取得価格:894 円
  • SBI は長期保有で法人株主、益金不算入の効果が大きい

実務論点

1. 対象会社取締役会の説明責任

自己株式取得価格が公開買付価格より低いこと自体は、少数株主の利益を損なうものではない(少数株主は TOB 価格で退出可能)が、開示書類の読み手が混乱しやすい。対象会社プレスリリース・意見表明報告書で、税務上の同等性の説明を明確に行う必要がある。

2. 資本金等・利益剰余金のバランス

自己株式取得の原資として、分配可能額(会社法第 461 条)の範囲内である必要がある。大規模な自己株式取得を予定する場合、TOB 成立後・株式併合直後の BS 上の剰余金が十分か、事前検証が必要になる。

3. 公開買付者親会社への再出資(ロールオーバー)

創業家・経営陣が公開買付者親会社に再出資する場合、当該再出資は自己株式取得の前に行われる(そうでなければ現金出資となり、税効率が失われる)。出資対象・出資価額・優先株式の設計(Preferred Stock に類する条件)は、案件ごとに差異が大きく、実質的な意思決定権の設計が実務論点となる。

4. DD と税務コンフォート

Due Diligence の過程で、対象会社の資本金等の額・過去の資本政策履歴(自己株式処分・第三者割当等)を確認し、みなし配当計算の前提を検証する。税務コンフォートレターまたは税務意見書の取得が、大型案件では標準となっている。

スキームの射程と限界

みなし配当スキームは、税務メカニズムを活用して M&A の総コストを圧縮する成熟した実務設計である。ただし、不応募合意株主の属性(法人/個人、国内/海外、保有割合)により税効率が大きく変わるため、ストラクチャリングの初期段階から税務アドバイザーを巻き込むことが成否を分ける。

スキーム自体は所与の技術だが、案件ごとに適用可否と利害関係者への説明責任が変わる。Abundia Advisory は、この判断軸の整理を対象会社・ファンド双方の立場から支援している。